あなたが「ビールを買おう」と思ったとき、頭の中にはいくつのブランドが浮かびますか。おそらく2〜5つ程度のブランドが自然と想起されるのではないでしょうか。そして、最終的にはその中から一つを選んで購入するはずです。

このとき、頭に浮かんだブランドの集合を「考慮集合(Consideration Set)」と呼びます。考慮集合に入っていないブランドは、そもそも購買の選択肢にすら入りません。つまり、消費者に選ばれるための第一歩は、まず考慮集合に入ることなのです。

本記事では、株式会社レイロがブランディング戦略の観点から、考慮集合とブランドの関係を深く掘り下げ、自社ブランドを消費者の考慮集合に確実に入れるための戦略を徹底解説します。

考慮集合とブランドの関係

Contents

考慮集合とは何か?マーケティング理論の基礎を理解する

考慮集合は消費者行動論における重要概念であり、ブランド戦略を考える上で欠かせない理論的基盤です。

考慮集合の定義と学術的背景

考慮集合とは、消費者が特定のカテゴリーで購買を検討する際に、実際に候補として頭に浮かぶブランドの集合のことです。この概念は1970年代に消費者行動研究の中で提唱され、以来マーケティング戦略の重要な理論的基盤として発展してきました。

消費者が認知しているブランドの全体を「認知集合(Awareness Set)」と呼び、その中で購買候補として積極的に検討されるブランドの集合が「考慮集合」です。さらに考慮集合の中から最終的に選ばれた一つが購買に至ります。

考慮集合の構造

消費者の頭の中にあるブランドの集合は、以下のような階層構造を持っています。

認知集合:消費者がそのカテゴリーで知っているすべてのブランド。市場に存在するブランドの総数から見ると、消費者が認知しているのはほんの一部です。

考慮集合:認知集合の中で、実際に購買の候補として検討されるブランド。一般的に3〜7ブランド程度とされています。

選択集合:考慮集合の中で、最終的な購買判断の直前に比較検討される最も少数のブランド。通常2〜3ブランドです。

不活性集合:認知しているが、特に好意も嫌悪も持たず、購買候補として積極的に検討しないブランドの集合です。

排除集合:認知しているが、ネガティブな印象を持ち、購買候補から意識的に除外しているブランドの集合です。

なぜ考慮集合のサイズは限られるのか

人間の認知資源は限られています。あらゆるカテゴリーで存在するすべてのブランドを評価することは、時間的にも認知的にも不可能です。そのため、消費者は無意識のうちに情報処理の負荷を減らすため、検討するブランドの数を絞り込みます。

この認知的な節約メカニズムが、考慮集合のサイズが限られる根本的な理由です。カテゴリーや関与度によって異なりますが、多くの研究で考慮集合のサイズは平均3〜5ブランド程度であることが示されています。

考慮集合への参入がブランドにとって重要な理由

考慮集合に入ることが、なぜブランド戦略においてこれほど重要なのかを、より詳しく見ていきましょう。

消費者の購買プロセス

考慮集合に入らなければ選ばれない

これは極めてシンプルですが、最も重要な事実です。消費者が購買を決定する際、考慮集合に入っていないブランドは検討の対象になりません。たとえ品質が優れていても、価格が競争力を持っていても、考慮集合に入っていなければ、その優位性を活かす機会すら得られないのです。

マーケティング活動の多くは、商品の魅力を伝えることに注力しがちですが、その前段階として「そもそも候補に入っているか」を確認することが先決です。

考慮集合内での順位が購買確率を左右する

考慮集合に入れたとしても、集合内での順位が購買確率に大きく影響します。考慮集合の中で最初に想起されるブランド(第一想起)は、二番目以降に想起されるブランドと比較して、購買される確率が格段に高いことが多くの研究で実証されています。

これは「序列効果」と呼ばれ、最初に想起されたブランドが基準点(アンカー)となり、以降のブランドはその基準点との比較で評価されるためです。

カテゴリーのリーダーは考慮集合のリーダー

あるカテゴリーで市場シェアの高いブランドは、概して消費者の考慮集合にも高い確率で含まれています。これはマーケットシェアと考慮集合参入率の間に正の相関があることを示しており、ブランドの市場ポジションと考慮集合のポジションは密接に結びついています。

消費者が考慮集合を形成するメカニズム

自社ブランドを考慮集合に入れるための戦略を立てるには、消費者がどのように考慮集合を形成するのかを理解する必要があります。

記憶ベースの考慮集合形成

消費者が事前の情報収集をせず、自分の記憶に基づいて考慮集合を形成するパターンです。日用品や食品など、購買頻度が高く関与度が低いカテゴリーでよく見られます。

このパターンでは、ブランドの「記憶の中での存在感(メンタルアベイラビリティ)」が決定的に重要です。日常的な広告接触、過去の購買体験、口コミなどを通じて記憶に蓄積されたブランドの印象が、想起の順番を決定します。

刺激ベースの考慮集合形成

店頭の棚やECサイトの検索結果など、購買時点で目にする情報に基づいて考慮集合が形成されるパターンです。この場合、店頭でのフェイス数(商品の陳列量)、パッケージデザインの視認性、ECサイトでの検索順位などが考慮集合への参入に影響します。

混合ベースの考慮集合形成

実際の消費者行動では、記憶ベースと刺激ベースが混合した形で考慮集合が形成されることがほとんどです。事前にある程度のブランドが記憶から想起され、購買時点で追加の情報に接触することで考慮集合が修正・補完されます。

特に高額な商品や、購買頻度が低い商品(家電、自動車など)では、混合ベースの形成が一般的です。

自社ブランドを考慮集合に入れるための7つの戦略

それでは、実際に自社ブランドを消費者の考慮集合に入れるための具体的な戦略を解説します。

戦略1:メンタルアベイラビリティの強化

メンタルアベイラビリティとは、ブランドが消費者の記憶の中でどれだけ「思い出されやすい」状態にあるかを表す概念です。マーケティング研究者のバイロン・シャープ教授が提唱したこの概念は、考慮集合への参入において最も重要な要素の一つです。

メンタルアベイラビリティを高めるためには、多様な「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」でブランドを連想させることが効果的です。CEPとは、消費者がカテゴリーの購買を考えるきっかけとなる場面や文脈のことです。

たとえば、ビールの場合、「仕事終わりの一杯」「バーベキュー」「お祝い」「リラックスタイム」など、さまざまなCEPが存在します。これらの多様な場面で自社ブランドが想起されるよう、コミュニケーション戦略を設計します。

戦略2:ブランドの独自資産(ディスティンクティブアセット)の構築

ディスティンクティブアセットとは、ブランド名を見なくてもそのブランドを特定できるような独自の資産のことです。ロゴ、色、フォント、音楽、キャラクター、パッケージの形状などがこれにあたります。

強力なディスティンクティブアセットは、消費者がブランドを瞬時に識別し、記憶から呼び出すためのトリガーとして機能します。考慮集合への参入率を高めるためには、一貫したディスティンクティブアセットの構築と維持が不可欠です。

戦略3:カテゴリーエントリーポイントの網羅

前述のCEPをできるだけ多くカバーすることで、消費者がカテゴリーの購買を考えるあらゆる場面で自社ブランドが想起される確率を高めます。

まず自社カテゴリーの主要なCEPをリストアップし、現在のブランドコミュニケーションがどのCEPをカバーしているかを分析します。カバーできていないCEPがあれば、そのCEPに対応したコミュニケーション施策を追加します。

ブランド戦略の設計

戦略4:継続的なブランド露出の確保

考慮集合は固定的なものではなく、時間の経過とともに変化します。ブランドへの接触がなくなると、記憶の中での鮮度が低下し、考慮集合から脱落するリスクがあります。

継続的な広告出稿、SNSでの発信、PR活動、店頭でのプロモーションなど、消費者との接点を絶やさないことが重要です。一時的な大規模キャンペーンよりも、適度な頻度で長期間にわたって露出を確保する方が、考慮集合への定着には効果的です。

戦略5:ポジティブなブランド体験の提供

消費者との接点で一貫してポジティブな体験を提供することは、考慮集合への参入と定着において極めて重要です。商品の品質はもちろん、購買プロセスの快適さ、カスタマーサポートの質、アフターフォローの丁寧さまで、あらゆるタッチポイントでの体験が考慮集合のポジションに影響します。

特にネガティブな体験は、ブランドを考慮集合から「排除集合」に移動させてしまうリスクがあるため、細心の注意が必要です。

戦略6:口コミとソーシャルプルーフの活用

他者からの推薦や評判は、消費者の考慮集合形成に大きな影響を与えます。特にSNS時代においては、友人や知人の推薦、インフルエンサーのレビュー、口コミサイトの評価などが、ブランドの考慮集合への参入を左右する重要な要素です。

顧客満足度を高め、自発的な口コミを促進する仕組みを構築することが、考慮集合戦略の重要な一環となります。

戦略7:フィジカルアベイラビリティの確保

メンタルアベイラビリティと対をなす概念として、フィジカルアベイラビリティがあります。これは、消費者がブランドの商品を物理的に入手しやすい状態を確保することを指します。

いくら記憶の中でブランドが想起されても、店頭に商品がなかったり、ECサイトで在庫切れだったりすると、購買に結びつきません。流通網の拡大、棚割りの確保、EC在庫の管理など、フィジカルアベイラビリティの向上も考慮集合戦略の重要な構成要素です。

考慮集合とマインドシェアの関係

考慮集合の理解をさらに深めるために、マインドシェアとの関係性について解説します。

マインドシェアとは

マインドシェアとは、特定のカテゴリーにおいて消費者の心の中でブランドが占める割合のことです。考慮集合が「候補に入っているかどうか」という質的な概念であるのに対し、マインドシェアは「どの程度の存在感を持っているか」という量的な概念と捉えることができます。

マインドシェアと購買行動の関連

マインドシェアが高いブランドは、考慮集合に入る確率が高く、かつ集合内での序列も上位になりやすい傾向があります。結果として、購買確率と市場シェアの向上につながります。

マインドシェアの獲得は一朝一夕にはいきませんが、長期的かつ一貫したブランディング活動によって着実に積み上げることができます。

デジタル時代における考慮集合の変化

デジタル技術の進化は、消費者の考慮集合形成プロセスにも大きな変化をもたらしています。

検索エンジンと考慮集合

消費者が購買前に検索エンジンで情報収集を行うことが一般化した現在、検索結果の上位に表示されるブランドは考慮集合に入りやすくなります。SEO対策やリスティング広告は、デジタル時代の考慮集合戦略として重要性を増しています。

SNSの影響力

SNS上での話題性や口コミは、特に若年層の考慮集合形成に大きな影響を与えます。バズったコンテンツやインフルエンサーの投稿が、これまで考慮集合に入っていなかったブランドを一気に候補に押し上げることもあります。

レコメンデーションアルゴリズムの影響

ECプラットフォームやSNSのレコメンデーションアルゴリズムは、消費者が意識しないうちに考慮集合の形成に影響を与えています。「あなたにおすすめ」として表示されるブランドは、刺激ベースの考慮集合形成において大きなアドバンテージを持ちます。

デジタル時代の考慮集合

考慮集合の分析と測定方法

自社ブランドの考慮集合におけるポジションを把握するためには、適切な分析と測定が必要です。

調査手法

純粋想起調査(Free Recall):カテゴリー名だけを提示し、思い浮かぶブランドを自由に挙げてもらう調査です。考慮集合の推定に最も有効な方法です。最初に挙げられたブランド(第一想起)が特に重要で、この位置にいるブランドは購買確率が最も高くなります。

助成想起調査(Aided Recall):ブランド名の一覧を提示し、認知しているブランドを選んでもらう調査です。認知集合全体の把握に有効です。

購買意向調査:特定のカテゴリーで購買を検討しているブランドを直接尋ねる調査で、考慮集合をより直接的に測定できます。

定期的な測定の重要性

考慮集合のポジションは時間とともに変動するため、定期的な測定が重要です。四半期ごと、あるいは半年ごとに同じ調査を実施し、推移を追跡することで、ブランディング施策の効果を検証できます。

考慮集合戦略でブランドを強くする

考慮集合の理論は、ブランド戦略の根幹に関わる重要な概念です。いかに優れた商品やサービスを持っていても、消費者の考慮集合に入っていなければ選ばれることはありません。

株式会社レイロでは、考慮集合への参入を戦略の中核に据えたブランディング支援を提供しています。ブランドの現状分析(考慮集合における現在のポジション把握)から、メンタルアベイラビリティ強化のための施策立案、ディスティンクティブアセットの構築、コミュニケーション戦略の設計まで、一貫したサポートを行っています。

消費者に「選ばれるブランド」を構築したいとお考えの企業様は、ぜひ一度ご相談ください。

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ブランド戦略支援

ブランド優位性を分析するビジネスパーソン

よくある質問

考慮集合とは簡単に言うと何ですか?

考慮集合とは、消費者が何かを買おうと思ったときに、頭の中に思い浮かぶブランドの候補リストのことです。たとえば「コーヒーを飲みたい」と思ったとき、3〜5個くらいのブランドやお店が自然に浮かぶと思いますが、その集合が考慮集合です。考慮集合に入っていないブランドは、そもそも購買の選択肢に入らないため、まず考慮集合に入ることがマーケティングの第一歩となります。

考慮集合に入るためのブランディングで最も効果的な方法は何ですか?

最も効果的なのは、メンタルアベイラビリティ(記憶の中での想起されやすさ)の強化です。具体的には、一貫したブランド資産(ロゴ、色、キャラクターなど)を長期にわたって使い続けること、消費者が購買を考えるさまざまな場面でブランドを連想させるコミュニケーションを行うこと、そして継続的にブランド露出を確保することが重要です。一時的な大規模キャンペーンよりも、長期的かつ一貫した取り組みが効果的です。

一度考慮集合に入ったブランドが脱落することはありますか?

はい、考慮集合は固定的ではなく、常に変動しています。ブランドへの接触が減少すると記憶の鮮度が低下し、考慮集合から脱落するリスクがあります。また、競合ブランドの積極的なマーケティング活動や、自社ブランドでのネガティブな体験(品質問題、不祥事など)も脱落の原因になります。考慮集合のポジションを維持するためには、継続的なブランドコミュニケーションと一貫したポジティブな顧客体験の提供が不可欠です。

BtoB企業にも考慮集合の概念は当てはまりますか?

はい、BtoB企業にも考慮集合の概念は十分に当てはまります。企業の購買担当者も、発注先を検討する際には限られた数の候補企業(考慮集合)の中から選定を行います。BtoBの場合は意思決定に関わる人数が多く、検討期間も長い傾向がありますが、考慮集合に入っていなければ選定候補にならないという原則は同じです。業界内でのブランド認知度向上、専門性の訴求、信頼性の構築が、BtoBにおける考慮集合戦略の要となります。

考慮集合のサイズはカテゴリーによってどの程度異なりますか?

考慮集合のサイズはカテゴリーによって大きく異なります。日用品や食品など購買頻度が高く関与度の低いカテゴリーでは2〜4ブランド程度、家電や自動車など購買頻度が低く関与度の高いカテゴリーでは4〜7ブランド程度が一般的です。関与度が高いカテゴリーほど消費者は情報収集に時間をかけるため、考慮集合のサイズがやや大きくなる傾向があります。ただし、いずれのカテゴリーでも認知しているブランドの総数から見ると、考慮集合に入るブランドはごく一部です。

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