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ブランドセイリエンスとは?消費者の記憶に残るブランドをつくる方法

消費者の記憶に浮かぶブランドを象徴する光るネオンサイン

「知っている」と「真っ先に思い浮かぶ」は、ブランドにとってまったく異なるレベルの存在感です。コンビニでお茶を買おうとしたとき、何十種類もある商品棚の中で無意識に手が伸びるブランドがある——その「選ばれやすさ」を左右するのが、ブランドセイリエンスです。

本記事では、ブランドセイリエンスという概念を基礎から体系的に解説し、消費者の記憶に深く刻まれるブランドをつくるための実践的な戦略をお伝えします。マーケティング理論の権威であるバイロン・シャープ教授の研究をベースにしながら、日本市場での応用に落とし込んだ内容をお届けします。

この記事を最後まで読むことで、ブランドセイリエンスの本質を理解し、自社ブランドが購買シーンで真っ先に想起されるための具体的な施策を設計できるようになるでしょう。


ブランドセイリエンスの定義と基礎理論

マーケティング理論を学ぶイメージの書籍とノート

ブランドセイリエンスとは何か

ブランドセイリエンス(Brand Salience)とは、消費者が特定の購買場面や消費場面において、あるブランドを思い出す確率の高さを指します。「セイリエンス(salience)」は「顕著性・突出性」を意味し、消費者の記憶の中でそのブランドがどれだけ目立つ存在であるかを表す概念です。

たとえば、「喉が渇いたので何か飲みたい」と感じた瞬間に、特定の飲料ブランドが真っ先に頭に浮かぶなら、そのブランドはその消費者にとって高いセイリエンスを持っていると言えます。重要なのは、単に「名前を知っている」ではなく、「適切なタイミングで自然に思い出される」状態であることです。

ブランドセイリエンスとブランド認知度の違い

ブランド認知度(Brand Awareness)とブランドセイリエンスは、しばしば混同されますが、明確に異なる概念です。認知度は「そのブランドの名前を知っているかどうか」という二値的な指標であるのに対し、セイリエンスは「購買の瞬間にどれだけの確率で思い出されるか」という確率論的な指標です。

認知度が100%のブランドであっても、購買時に想起されなければ選ばれることはありません。逆に、認知度がそれほど高くなくても、特定の購買場面で高いセイリエンスを持つブランドは、そのカテゴリで安定した売上を確保できます。セイリエンスは認知の「量」ではなく「質」を問う指標だと言えるでしょう。

バイロン・シャープ教授の理論的背景

ブランドセイリエンスの概念を広く知らしめたのは、南オーストラリア大学のバイロン・シャープ教授です。シャープ教授は著書の中で、ブランドの成長はロイヤルティの深化よりも、より多くの消費者の記憶に残ること(メンタルアベイラビリティの拡大)と、より多くの場所で購入できること(フィジカルアベイラビリティの拡大)によってもたらされると主張しました。

この理論では、ブランドセイリエンスはメンタルアベイラビリティの中核的要素として位置づけられています。消費者の記憶の中に多様な「エントリーポイント(想起のきっかけ)」を構築し、さまざまな購買場面でブランドが想起される確率を高めることが、ブランド成長の最も効果的な方法だとされています。

メンタルアベイラビリティとの関係

メンタルアベイラビリティとは、ブランドが消費者の記憶の中でアクセスしやすい状態にあることを指します。ブランドセイリエンスは、このメンタルアベイラビリティを構成する要素であり、具体的には「想起の幅(どれだけ多くの場面で思い出されるか)」と「想起の強さ(どれだけ優先的に思い出されるか)」の2軸で評価されます。

想起の幅が広いブランドは、さまざまなシチュエーションで消費者の選択肢に入ることができます。想起の強さが高いブランドは、特定のカテゴリにおいて競合を押しのけて最初に想起されます。理想的なのは、両方を兼ね備えたブランドです。


ブランドセイリエンスを構成する要素

ブランドの構成要素を表す抽象的なカラフルなモザイク

カテゴリーエントリーポイント(CEP)

カテゴリーエントリーポイント(Category Entry Point)とは、消費者がそのカテゴリの商品・サービスを必要と感じるきっかけとなる状況や動機のことです。たとえば、カフェのCEPには「朝の目覚めに」「仕事の合間のリフレッシュに」「友人との待ち合わせに」「勉強に集中したいときに」など、多様なエントリーポイントが存在します。

ブランドセイリエンスを高めるには、できるだけ多くのCEPと自社ブランドを結びつけることが重要です。一つのCEPに強く紐づくだけでなく、複数のCEPで想起されるブランドは、消費者との接触機会が格段に増えるため、売上拡大に直結します。

ディスティンクティブ・ブランド・アセット

ディスティンクティブ・ブランド・アセット(Distinctive Brand Asset)とは、そのブランド固有の識別要素のことです。ロゴ、カラー、形状、サウンドロゴ、キャラクター、パッケージデザイン、タグラインなどがこれに該当します。これらのアセットは、消費者がブランド名を見なくても「あのブランドだ」と瞬時に認識できる手がかりとなります。

優れたディスティンクティブ・ブランド・アセットは、ブランドセイリエンスの向上に直接貢献します。なぜなら、消費者の記憶の中でブランドを呼び起こすトリガーの数が増えるからです。視覚・聴覚・触覚など、複数の感覚チャネルにまたがるアセットを持つブランドは、記憶からの検索がされやすくなります。

感情的な記憶の紐づけ

人間の記憶は感情と密接に結びついています。ポジティブな感情を伴う経験は記憶に残りやすく、想起もされやすいという認知心理学の知見は、ブランドセイリエンスの構築にも当てはまります。

ブランドが消費者の心にポジティブな感情の痕跡を残すことができれば、購買場面での想起確率は飛躍的に高まります。広告やブランド体験を通じて「楽しい」「感動する」「安心する」といった感情を喚起し、それをブランドと結びつけることが、セイリエンス向上の重要な戦略となります。

使用経験と反復接触

ブランドセイリエンスの最も強力な源泉は、実際の使用経験です。商品やサービスを使った記憶は、広告を見た記憶よりもはるかに強固で、長期間にわたって想起されやすい状態が続きます。そのため、トライアル促進やサンプリングは、セイリエンス構築の観点からも有効な施策です。

また、同じブランドに繰り返し接触することも、セイリエンスの維持・強化に不可欠です。広告の長期継続、パッケージの店頭露出、SNSでの定期的な発信など、さまざまなチャネルを通じた反復接触が、消費者の記憶の中でブランドの存在感を持続させます。


ブランドセイリエンスの測定方法

データ分析とグラフを表すビジネスレポートの画像

純粋想起(Unaided Recall)テスト

ブランドセイリエンスの最も基本的な測定方法は、純粋想起テストです。調査対象者に「〇〇(カテゴリ名)と聞いて思い浮かぶブランドをすべて挙げてください」と質問し、自社ブランドが何番目に挙がるか、全体の何%の回答者が挙げたかを計測します。

特に重要なのは「第一想起(Top of Mind)」——最初に名前が挙がるブランドであるかどうかです。第一想起を獲得しているブランドは、購買における選択確率が著しく高くなります。カテゴリごとの第一想起率を定期的にモニタリングすることで、ブランドセイリエンスのトレンドを把握できます。

CEPベースの想起調査

カテゴリーエントリーポイント(CEP)ごとに想起されるブランドを調査する方法は、ブランドセイリエンスのより精緻な測定を可能にします。「朝食のときに飲みたい飲み物は?」「友人へのプレゼントに選ぶブランドは?」といったCEP別の質問を設計し、各場面での想起率を計測します。

この調査により、自社ブランドが強いCEPと弱いCEPが明確になり、セイリエンス向上施策のターゲットを具体的に設定できるようになります。競合ブランドとのCEP別比較も有効で、差別化のポイントを見出すことが可能です。

ブランド再認(Aided Recognition)テスト

純粋想起の補助的な測定として、ブランド再認テストも活用されます。ブランドのロゴ、パッケージ、カラー、サウンドロゴなどのディスティンクティブ・ブランド・アセットを提示し、正しくブランドを特定できるかを測定します。

再認テストは、ディスティンクティブ・ブランド・アセットの効果を評価するのに適しています。アセット単体での再認率が高ければ、店頭やデジタル広告でのブランド識別がスムーズに行われていることを意味し、セイリエンスの基盤が強固であると判断できます。

暗黙的連想測定(IAT)

より高度な測定手法として、暗黙的連想テスト(Implicit Association Test)があります。回答者が意識的にコントロールできない反応速度を利用し、ブランドと特定の概念(カテゴリ、属性、感情)との結びつきの強さを測定する方法です。

IATを活用することで、消費者が言語化しにくいブランドとの無意識的な連想を可視化できます。自社ブランドが「品質」「安心」「楽しさ」といった概念とどの程度強く結びついているかを客観的に把握し、セイリエンス向上の方向性を導き出すことが可能になります。


ブランドセイリエンスを高める7つの戦略

戦略を練るチームのブレインストーミング風景

戦略1:CEPの網羅的カバレッジ

自社ブランドに関連するカテゴリーエントリーポイントをすべて洗い出し、可能な限り多くのCEPで想起されるよう、コミュニケーション戦略を設計します。まず、ターゲットカテゴリにおけるCEPの全体像をマッピングし、現在自社が強いCEPと弱いCEPを特定します。

弱いCEPに対しては、そのシチュエーションと自社ブランドを結びつける広告やコンテンツを制作し、接触頻度を高めていきます。たとえば、「仕事の合間のリフレッシュ」というCEPで弱い飲料ブランドであれば、オフィスシーンでの利用を描いた広告を展開することで、そのCEPでのセイリエンスを強化できます。

戦略2:ディスティンクティブ・ブランド・アセットの強化

ブランド固有の識別要素を強化し、消費者がどこでブランドに接触しても瞬時に認識できる状態を目指します。ロゴ、ブランドカラー、パッケージデザイン、サウンドロゴ、キャッチフレーズなどのアセットを、一貫して使用し続けることが重要です。

アセットの変更は慎重に行う必要があります。リブランディングの際にすべてのアセットを一新すると、消費者の記憶に蓄積されたブランド資産がリセットされ、セイリエンスが大幅に低下するリスクがあります。進化させる場合も段階的に行い、核心的なアセットは維持することが推奨されます。

戦略3:継続的なメディア露出

ブランドセイリエンスは、メディア露出が途切れると徐々に低下していきます。記憶は時間とともに減衰するためです。継続的にメディアに露出し、消費者の記憶を定期的にリフレッシュすることが、セイリエンス維持の基本戦略です。

短期集中型のキャンペーンだけでなく、通年でのベースラインとなるメディア投下を維持することが望ましいでしょう。予算が限られている場合は、費用対効果の高いデジタルメディアやSNSを活用し、低コストでも途切れない露出を確保することがポイントです。

戦略4:感情に訴える広告クリエイティブ

記憶への定着率を高めるために、感情に訴えるクリエイティブを活用します。ユーモア、感動、驚き、共感といった感情を喚起する広告は、理性的・情報的な広告と比較して記憶に残りやすく、長期的なセイリエンス構築に効果的です。

ただし、感情的なストーリーにブランドの存在が埋もれてしまう「ヴァンパイア効果」には注意が必要です。感情的なコンテンツであっても、ディスティンクティブ・ブランド・アセットを効果的に組み込み、感情とブランドが強固に結びつくよう設計しましょう。

戦略5:フィジカルアベイラビリティとの連動

ブランドセイリエンス(メンタルアベイラビリティ)は、フィジカルアベイラビリティ(購入しやすさ)と両輪で機能します。いくら記憶の中で想起されても、実際に購入できる場所がなければ売上にはつながりません。逆に、店頭で目にすることがセイリエンスの強化にもなります。

配荷率の向上、店頭でのフェイス数の確保、EC販路の拡充など、消費者がブランドを目にする機会と購入できる機会を同時に増やすことで、セイリエンスとフィジカルアベイラビリティの好循環を生み出すことができます。

戦略6:ブランド体験の設計

広告による記憶よりも、実際の体験による記憶の方がはるかに強固です。ポップアップストア、試食・試飲イベント、体験型キャンペーン、ワークショップなど、消費者が五感でブランドを体験できる機会を創出することは、セイリエンスの強力な源泉になります。

オンラインでも、インタラクティブなWebコンテンツ、AR体験、ライブ配信イベントなどを通じて、受動的な情報受容ではなく能動的な参加体験を提供することで、記憶への定着を促進できます。

戦略7:既存顧客との接点維持

新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客との継続的な接点を維持することも、ブランドセイリエンスにとって重要です。購入後のフォローアップメール、会員向けコンテンツの配信、ロイヤルティプログラム、季節のご挨拶など、購買と購買の間の期間でもブランドとの接点を保つことで、次の購買場面での想起確率を高めることができます。

休眠顧客に対するリエンゲージメント施策も、低下したセイリエンスの回復に有効です。長期間ブランドとの接触がない顧客に対して、適切なタイミングでリマインドのコミュニケーションを行うことで、記憶のリフレッシュを図りましょう。


ブランドセイリエンスと差別化戦略の関係

セイリエンスか差別化か——論争の整理

マーケティング戦略の世界では、「ブランドの成長にはセイリエンス(想起されやすさ)が重要か、差別化(独自のポジショニング)が重要か」という論争が長らく続いています。バイロン・シャープ教授はセイリエンスを重視する立場であり、ケラーやアーカーといった伝統的なブランド理論家は差別化を重視する立場です。

実務的には、この二つは二者択一ではなく相互補完的な関係にあります。差別化されたブランドポジションは、特定のCEPでのセイリエンスを高める助けとなります。逆に、高いセイリエンスを持つブランドは、差別化されたメッセージを消費者の記憶に定着させやすくなります。

「意味ある差別化」とセイリエンスの統合

現代のブランド戦略では、差別化とセイリエンスを統合的に捉えるアプローチが主流になりつつあります。カンターのブランドフレームワークでは「意味ある差別化(Meaningful Difference)」と「セイリエンス」の掛け算がブランドの競争力を決定するとしています。

実践的には、まず自社ブランドならではの差別化ポイントを明確にし、その差別化ポイントをできるだけ多くのCEPと紐づけて繰り返し発信することで、セイリエンスとして定着させていく——という統合アプローチが効果的です。

日本市場におけるセイリエンスの特殊性

日本市場では、ブランドの歴史や伝統が消費者の信頼に直結する傾向が強く、長年にわたって蓄積されたセイリエンスが大きな競争優位になります。また、季節イベントや行事に合わせた商品展開が活発であるため、季節ごとのCEPとブランドを結びつける戦略が特に有効です。

さらに、日本の消費者はパッケージデザインへの感度が高いため、店頭でのビジュアルセイリエンス(視覚的な目立ちやすさ)も重要な要素です。Webやデジタルでのセイリエンスに加え、リアルな購買環境でのセイリエンス設計にも注力すべきでしょう。


よくある質問(FAQ)

Q1. ブランドセイリエンスとブランドロイヤルティの関係はどのようなものですか?

バイロン・シャープ教授の理論では、ブランドロイヤルティはブランドの市場シェアに概ね比例するとされています。つまり、多くの消費者に想起されるブランド(高セイリエンス)ほど、結果的にリピート購買率も高くなるという関係です。ロイヤルティを高めるためにも、まずはセイリエンスを拡大して顧客基盤を広げることが効果的なアプローチとされています。

Q2. 広告予算が限られている場合、セイリエンスを高めるにはどうすればよいですか?

限られた予算でセイリエンスを高めるには、まずディスティンクティブ・ブランド・アセットを強化し、少ない接触でも記憶に残るブランド識別要素を確立することが最優先です。次に、SNSやコンテンツマーケティングなど低コストで継続的な露出が可能なチャネルを活用し、途切れない接触を維持します。PRやパブリシティの活用も、費用対効果の高いセイリエンス構築手段です。

Q3. ブランドセイリエンスはBtoB企業にも適用できますか?

適用できます。BtoBにおいても、意思決定者が製品やサービスの導入を検討する際に「真っ先に思い浮かぶブランド」であることは、商談機会の獲得に直結します。BtoBのCEPには「課題を感じたとき」「予算策定のとき」「上司から指示されたとき」などがあり、これらのタイミングで想起されるブランドが有利になります。業界メディアへの露出やカンファレンスでの登壇もBtoBセイリエンスの構築に有効です。

Q4. セイリエンスが高いのに売上が伸びない場合、何が原因と考えられますか?

ブランドセイリエンスが高いにもかかわらず売上が伸びない場合、フィジカルアベイラビリティ(購入のしやすさ)に課題がある可能性が高いです。消費者が想起しても、店頭に商品がない、EC購入が面倒、価格が予算に合わないなどの障壁があれば購買には至りません。また、想起はされるものの、ネガティブな連想(品質問題、悪評など)が伴っている場合もセイリエンスが購買に結びつかない原因となります。

Q5. ブランドセイリエンスの向上効果が現れるまでの期間はどのくらいですか?

ブランドセイリエンスの構築は中長期の取り組みであり、一般的に効果が測定可能になるまで6か月〜1年程度を要します。大量のメディア投下を伴うキャンペーンであれば3か月程度で純粋想起率に変化が見られることもありますが、持続的なセイリエンスの構築には継続的な投資が必要です。短期的な数字に焦らず、一貫したブランド活動を積み重ねることが、長期的なセイリエンス資産の形成につながります。


まとめ

ブランドセイリエンスは、消費者が購買の瞬間にブランドを思い出す確率の高さを指す概念であり、ブランド成長の根幹を成す指標です。単なる認知度とは異なり、適切な購買場面で自然と想起される「記憶の中の存在感」を構築することが、ブランドセイリエンスの本質です。

カテゴリーエントリーポイントの網羅的カバレッジ、ディスティンクティブ・ブランド・アセットの強化、継続的なメディア露出、感情に訴えるクリエイティブなどを通じて、消費者の記憶の中に多様な想起のきっかけを埋め込んでいくことが、セイリエンス向上の鍵です。

自社ブランドのセイリエンスの現状を把握し、消費者の記憶に深く刻まれるブランド構築に取り組みたいとお考えの方は、専門家への相談をおすすめします。


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